交差点の場合は「交差点需要率」で判定
こちらの交通容量比(V/C比)とはという記事では、一般的な道路の「交通容量比」について解説してきました。
しかし、特に信号のある交差点の場合は、単純な「交通容量比」ではなく、より精緻な「交差点需要率」という指標で判定するのが、交通工学における標準的な考え方です。
すなわち、
- 道路の場合:「交通容量比」が1.0未満だと、通行が機能している=渋滞していない
- 交差点の場合:「交差点需要率」が「許容需要率」未満だと、通行が機能している=渋滞していない
となります。
交差点需要率とは
交通容量比との違い
「交通容量比(V/C比)」は、信号のない1本の道路(単断面)を対象に、「1日に流せる最大の交通量(容量)」に対して「実際の交通量」がどれくらいかを示す、比較的シンプルな指標です。
一方、信号のある交差点では、話がそう単純ではありません。
赤信号での待ち時間、右左折車の処理、車線ごとの構成など、単断面の道路にはない要素が絡み合うためです。
そこで交差点の評価では、次のような要素を踏まえた交差点需要率という、より精緻な指標が使われます。
- 各流入方向の交通量
- 右左折交通の割合
- 車線構成
- 信号現示(青・赤の切り替えパターン)
- 信号サイクル長・有効青時間
交差点需要率は、これらの条件から、その交差点がどれだけ余裕を持って交通を処理できているかを表す数値です。
数値が大きいほど混雑していることを示します。
名古屋市の資料でも
- 「0.8以上では部分的に混雑が発生する可能性がある」
- 「0.9以上では信号で処理困難な混雑が発生する可能性がある」
とされています。
そして、交差点ごとに「これ以上になると危険」という上限値が個別に設定されており、これが許容需要率です。
交差点の形状や信号のパターンによって、この許容需要率は交差点ごとに異なります(後述する資料では0.875〜0.913の範囲で設定されています)。
つまり、交差点の混雑を「交通容量比(V/C)が1.0未満だから大丈夫」と単純に説明するのは、単断面の道路用の指標を、信号交差点という別物に当てはめてしまっている、という誤りがあります。
まとめると、
- 道路の場合:「交通容量比」を用いる
- 交差点の場合:「交差点需要率」を用いる
実際の例に当てはめると
1. 野並・島田交差点の場合
野並・島田交差点などについては、2021年3月30日開催の「弥富相生山線の道路建設に係る学術検証懇談会」の資料に、「交差点需要率」がはっきりと示されています。
野並交差点(A):
- 交差点需要率(現況・改良後):0.820
- 許容需要率:0.913
島田交差点(B):
- 交差点需要率(現況・改良後):0.784
- 許容需要率:0.913
野並・島田交差点の「交差点需要率」は「許容需要率」を下回っており、現時点では基準上、渋滞と判定される状態ではありません。
車線拡張で、渋滞が解消
島田交差点には「改良前」の数値も記載されており、それは1.129です。
これは許容需要率(0.913)を大きく超えた、実際に過飽和(渋滞)状態にあったことを示す数値です。
既存の交差点改良工事によって、現在は基準内に収まっています。
2. 昭和高校前交差点と久方交差点の場合
昭和高校前・久方交差点については、2026年3月1日開催の「弥富相生山線の折衷案に関する説明会」の資料には、「交差点需要率」が示されていません。
説明会資料には、単純な「交通容量比」が示されており、「1.0未満だからOK」と解説されています。
しかし、この記事で説明しているように、交差点の混雑判定の場合は、「交通容量比」ではなく、信号条件を踏まえた「交差点需要率」を用いるのが、交通工学的に適切な方法です。
したがって、昭和高校前交差点と久方交差点の場合については、市の基準が誤っているため、正確な判断ができない、ということになります。
誘発交通というもう一つの不確実性
道路が新設されると、一時的に移動がスムーズになった分だけ、新たな交通需要を呼び込んでしまい、道路新設効果が弱まる「誘発交通」という、やっかいな現象があります。
弥富相生山線が開通し、当初は多少速く走れるようになったとしても、それによって新たにこの道路を使い始める車が増えれば、久方・昭和高校前交差点の混雑は、当初の予測以上に進む可能性があります。
「交差点需要率」には含まれていない
誘発交通というやっかいな現象は、「交通容量比」にも「交差点需要率」にも、計算に入っていません。
なぜなら、誘発交通は、計算するのが難しいからです。
実際、これまでの学術検証委員会の議事録でも、複数の委員が「誘発交通の予測は学術的に困難で、分析は未実施」と明言していました。
つまり、「交差点需要率」という精密な指標でさえ、必ずしも現実を反映した数値ではない、ということです。
データの矛盾
ここで、一つ重要な事実があります。
実は、この2021年の同じ資料の中に、昭和高校前交差点(D)についても「交差点需要率」のデータが、すでに存在しています。
昭和高校前交差点(D):
- 交差点需要率(R7整備なし):0.870
- 交差点需要率(R7整備あり):0.825
- 許容需要率:0.900
このデータだけを見ると、弥富相生山線を整備した方が、昭和高校前交差点の交差点需要率はむしろ改善する(0.870→0.825)という結果になっています。
ところが、2026年3月1日の住民説明会資料では、同じ昭和高校前交差点について、まったく異なる指標と数値が示されています。
「交通量の増加は予測されますが、交通容量比は1.0未満であり交通処理能力以内に収まります」 A方向【朝8時】:交通容量比 整備なし0.615 → 整備あり0.750
こちらは、弥富相生山線を整備すると、昭和高校前交差点の混雑度がむしろ悪化する(0.615→0.750)という、正反対の傾向を示す数値です。
同じ昭和高校前交差点について、
- 2021年の資料は「交差点需要率で見ると、道路整備によって混雑が改善する」とし、
- 2026年の資料は「交通容量比で見ると、道路整備によって混雑が悪化する」
としています。
すなわち、市の提供したデータが矛盾している、ということです。
なお、久方交差点については、2021年の資料に交差点需要率のデータそのものが見当たらず、2026年の説明会資料でのみ交通容量比(0.308→0.670)が示されています。
この矛盾をどう考えるべきか
このように、
- データが矛盾している
- 適用すべき基準を間違っている
という2つの問題がある以上、もはや名古屋市の資料が信用できない、という事態になっています。
名古屋市が回答すべき疑問点
- なぜ2026年の公式な住民説明会では、より精緻な「交差点需要率」ではなく、単純な「交通容量比」だけが示されたのか?
- 2021年時点で既に「交差点需要率」のデータを保有していたにもかかわらず、なぜ2026年の説明でこの指標との整合性について触れられなかったのか?
- 昭和高校前交差点と久方交差点について、交差点需要率で見た場合、最新のデータではどのような数値になるのか?
これらは、行政に対して具体的な説明を求めるべき、正当な疑問だと考えます。
まとめ
- 交差点の混雑判定には、単純な「交通容量比」ではなく、信号条件を踏まえた「交差点需要率」を用いるのが、交通工学上より適切な方法です。
- 昭和高校前交差点については、2021年の資料に存在する「交差点需要率」のデータ(整備により改善)と、2026年の住民説明会で示された「交通容量比」のデータ(整備により悪化)との間に、見過ごせない不一致があります。
- 久方交差点については、より精緻な「交差点需要率」による評価そのものが、これまでのところ公開資料の中に見当たりません。
いずれにしても、行政が保有している複数のデータ・指標の間に、住民に対して十分に説明されていない不整合があるという状況は、決して見過ごすことはできません。
名古屋市には、昭和高校前交差点・久方交差点について、交差点需要率も含めた最新かつ整合性のあるデータを、あらためて開示・説明する責任があると考えます。