第3回「相生山緑地の道路建設に係る学術検証委員会」議事録 要約

  • 日時: 2010年(平成22年)4月2日 午後3時〜5時
  • 会場: 名古屋市役所 正庁
  • 参加: 委員9名(全員出席)、武田オブザーバー委員、インスペクター3名(大竹氏、岡村氏、長谷川氏)、傍聴17名
  • 報道: 7社(中京テレビ、名古屋テレビ、テレビ愛知、建通新聞、読売新聞、中日新聞、毎日新聞)、フリージャーナリスト1名

資料


第3回の位置づけ

前2回で各委員が問題意識を出し合った段階から、課題の構造化・整理へと踏み込む回として位置づけられました。

冒頭、山下委員長は今回の目標を次のように示しています。

相生山に道路を造るにあたってどういう視点で何を検討しなくてはいけないかという課題整理をやりたい。…これは十分根拠があるとか、そういうことを明らかにしてできるだけ早い時期に私どもの委員会の考えを公表するようにしたい(山下委員長)

今回の特徴は、道路建設を前提として長年作業してきた専門家会(インスペクター)3名を招聘し、その経験から学ぶ形をとったことです。


インスペクター3名からの意見聴取

インスペクターとは何か

インスペクターとは、住民と行政が対立した際に、「技術的に解決できることなら反対しない」という立場で、行政・業者・住民の間に立って工事の方法論を検証・監視してきた専門家グループ(岡村・大竹・長谷川の3氏)です。

イギリスの「インスペクター制度」に近い役割を担おうとしたものの、法的な権限はなく、あくまで技術的な検証にとどまっていた、とされています。

前提として「道路建設はやむをえない」という制約の中で動いていた点が、本委員会との大きな違いです。

岡村インスペクター(名古屋市立大学大学院教授・緑地計画)

事業認可・住民説明会・土地取得まで完了した段階では「行政には事業を止める手立てがない」という構造的制約の中で専門家会が発足したことを説明しました。

ヒメボタルの保全については明確な条件を提示しています。

これだけは守ってほしいのは、交尾期間の夜間の通行止めです。…夜11時から明け方まで通行止めにしてもらえれば(岡村インスペクター)

ヒメボタルの生態的な特性も整理されました。

  • 成虫が光る場所と幼虫が育つ場所は異なること
  • ヒメボタルは光に極めて敏感であること
  • 餌となる陸貝の生育はヒノキ林の酸性土壌では阻害されるため道路予定地周辺は比較的密度が低いこと

など、微細な生態的知見が示されています。

一方で、必ずしも「自然が豊かな場所にヒメボタルが多い」わけではないという逆説的な知見も示されました。

八竜緑地というのがありますが、名古屋市で一番緑が豊かで湿地があって守られているのですが、ヒメボタルはいません。自然が豊かに守られているところでは名古屋のヒメボタルはいないのです(岡村インスペクター)

また、相生山の土壌についても、独特な表現で特徴が語られています。

相生山の土壌は「体は大人、心は子供」のような、未成熟でありながら多様性に富む、痩せた土壌であり、放置すればゴミや竹に覆われてしまうため、適切な「人の介入」が必要だという指摘もありました。

大竹インスペクター(元日本モンキーセンター学芸員)

「道路建設に賛成で参加したわけではなく、基本的に自然に手を加えてはいけないというのが持論」と前置きしつつ、「全部反対で終わってしまって何も残らない」という立場から折り合いを模索してきたと説明しています。

当初の調査への疑義を自ら認めた点は重要です。

当初の調査を見ましたら、ホタルがいるところというのは遊歩道沿いに点々としかいないんです。こんなはずはないということで、全面的に調べることに(大竹インスペクター)

また、本質的な問題として「緑地全体をどうするか」という方針の欠如を指摘しました。

名古屋市が相生山緑地をどう考えているのかが根本的な問題だと思います。…公園全体としてこの緑地をどうしていくのかというところの基本的な問題がはっきりしていません(大竹インスペクター)

長谷川インスペクター(ビオトープを考える会会長)

縦割り行政の構造的問題を指摘しています。

名古屋市は緑政土木局ということで、形の上では道路と緑地が一緒になっていますが、中ではまだまだなかなか一緒になれていない(長谷川インスペクター)

また、「造らなかった時の補償システムが全くなかった」という制度的な欠陥を述べ、そのために「造らざるを得ない」という結論になりやすい構造を説明しました。

さらに、住民同士の対立が生まれてしまった現状への苦悩も率直に述べています。

私が今回つらいと思うのは、住民同士の戦いになってしまっていることで(長谷川インスペクター)

次世代への継承という観点では、夜間通行止めを「考える機会」として位置づける視点を示しました。

夜中通れなくなると、なぜ通れないんだろうと考えていく機会になるのではないでしょうか(長谷川インスペクター)


委員による質疑と討議

ゼロ・オプションの優先性(加藤委員)

インスペクターへの感謝を示しつつ、本委員会の立場との根本的な違いを明確にしました。

もともと造ることを前提で議論してこられた立場上難しいかもしれませんが、もしそういう制約から解き放たれて、造るか造らないかも含めて議論するならどういうことが自分としては知りたいか(加藤委員)

さらに評価の「優先順位」を明確に主張しています。

もしこの道路が、ある目的があって造ることになっているわけですが、その目的に対してそれを達成できるものではないとすれば、自然のことは何も考えなくてもよくて、造らないで終わりとなる。そういう意味では、道路を造ることに意味があるかどうかということが、まず優先度として非常に高いのではないでしょうか(加藤委員)

つまり「①交通面での必要性の検証」が先であり、それが否定されれば「②環境影響の検証」はそもそも不要になるという論理的な順序が示されました。

水循環と市の政策矛盾(寺井委員)

この回で最も具体的な数値的根拠が示されました。

寺井委員は、これまでの調査の質そのものにも言及しつつ、事務局に試算を依頼した結果を報告しています。

そのアセスが極めていい加減だったということですが、アセスをきちんとやる必要があると思います。これはこの前も言いましたが、水環境の点では、「水の環復活2050なごや戦略」というのが制定され、それでは名古屋市の緑が今非常に少なくなっており、それを2050年までに36%まで増やすという目標を掲げて、どうすればいいかということを計算しています。それで、実際に相生山に道路を通した時に水環境がどうなるかということで、事務局の方に計算してもらいました。そうすると、今道路を造らないで緑地のままであったとすると、降った雨の37%が浸み込まずに直接流出します。ところが道路を造ると、今の計画で歩道を造って、浸透枡を造って、シェルターに緑を造ってという配慮をして道路を造ったとしても、道路を建設した場合に降った雨の55%が直接流出するという計算結果がでてきました。将来36%という水の直接流出の目標からすると、55%の流出というのはものすごくマイナスです。ですから、この道路計画は既に水の環復活戦略に組み込まれているという話なんですが、実際に計算してみてそれだけ水が浸み込まないことになると、やっぱり道路の建設の必要性が、どうしても必要だということでなければ、考える必要があると思いました(寺井委員)

これは「⑤ 水循環の破壊と、森の乾燥化の悪循環」に登場する「37%→55%」という具体的数値の出典であり、第3回委員会の席上で初めて示されたものです。

地下水と地質調査の不十分さ(足立委員)

ボーリングコアが断片的で連続していないことを指摘し、地下水流動の実態把握が不可能な状態にあることを述べました。

雨が降ってきた時に、どこを通ってどう出ていくかということは…元のデータが無いと思いました(足立委員)

交通需要「造らない場合」の検証不足(松本委員)

インスペクターの話から、「造られない時の交通影響が検討されていない」という問題を改めて確認しています。

with、without ですね。造った時の予測値のデータが古いということもあります。最新のデータを用いて、造った場合と造らない場合、ただし桜通線の開通とか市バスの再編、環状2号の開通、この辺をきっちりと入れたうえで予測をして(松本委員)

委員会の役割と「科学にできること」(秀島委員・山下委員長)

秀島委員は、「議会で承認された戦略」については学術検証の対象ではなく前提条件であるという、委員会の射程範囲の整理を提起しました。

山下委員長はこれに応えてこの委員会の使命を明確に定義しています。

造るか造らないかの判断は行政のやることだし、議会がやることです。その根拠をどう与えるか。部分的な根拠じゃなくて、我々の持っている知恵のすべてを総動員させて、その根拠をどう導くかというその素材を…それがまさに学術という論理である(山下委員長)

緑地の将来像という根本問題(大場・増田・林各委員)

大場委員は、市民から「造るな」という声は聞いたが「造らない場合、相生山をどうしたいか」という問いかけが欠けていたと指摘しました。

増田委員は生態系の遷移予測の困難さを述べ、「造ってみないとわからない」という率直な言葉とともに、管理方針がなければ議論が成立しないと強調しています。

林副委員長はそれを受け、「市が相生山緑地の将来ビジョンを持っていないことが、この議論全体の根底にある問題だ」と整理しました。

市の方が相生山緑地についてどうするのかというのをまだ検討していなくて、ビジョンができていないということで…なるべく早い時期に、この緑地をどうするのかという将来像というのを市としても作っていく必要がある(林副委員長)


検証課題の整理表の提示

山下委員長と林副委員長が共同でまとめた、委員会の論点整理表(A3判)が初めて提示されました。

この表は、「道路建設の必要性」と「環境影響」という2大課題軸のもとに、社会的事項・交通事項・自然環境・人為環境の各分野を整理したもので、大まかには次のような枠組みになっています。

カテゴリ 重点検証事項
道路建設の必要性 都市計画の歴史、救急・消防等の社会的事項、最新の交通需要予測
環境影響(自然) 生物多様性(ホタル・オオタカ等)、水環境、緑地の将来像
環境影響(人為) 大気汚染、アメニティー、次世代への価値の継承

林副委員長はこの表の意義を次のように説明しています。

相生山に限らずすべてのところでこういうものが必要なはずなんです。…これは相生山というすでに問題が起こっている現場について議論しているからこうして出てくるんです(林副委員長)

次回に向けて、この表に「根拠あり/根拠不足/未検討」の色分けを加え、構造化したものに仕上げることが宿題として設定されました。


まとめ:6つの問題点との対応関係

第3回は、「問題の洗い出し」から「問題の構造化」へと移行した回であり、いくつかの点で、強力な論拠が提示されました。

現行の6つの問題点 第3回での対応する内容
① 時代遅れの計画・政策矛盾 加藤委員:50年前の都市計画決定を「今日的な見方で見直す必要がある」と明言
② 不誠実な住民合意形成 長谷川インスペクター:「造らなかった時の補償システムが全くない」ため造らざるを得ない構造になっていたことを告白
③ 科学的根拠を欠いた道路建設効果 松本委員:「with・without」両シナリオでの最新交通需要推計がないことを改めて確認
④ 生態系へのダメージ 大竹インスペクター:当初の生態調査が「遊歩道沿いの点々」に過ぎず、自ら全面調査を求めたことを証言
⑤ 水循環の破壊 寺井委員:「37%→55%」という雨水流出率の試算値をこの場で初公表。「水の環復活2050なごや戦略」の目標値36%と真っ向から矛盾することを定量的に示した
⑥ 財政・公共事業としての不適格性 加藤委員:「道路を造ることに意味があるかどうかの検証が最優先」という評価の順序を提示(費用便益の前提条件への疑義)

特に注目すべきは2点あります。

第一に、「37%→55%」の数値が第3回委員会で初めて示されたことであり、この数値は現行テキストにおける最も説得力のある定量的根拠として機能しています。

第二に、長谷川インスペクターの「造らなかった時の補償システムが全くない」という発言は、問題点②(住民合意形成の不誠実さ)を別の角度から補強します。

インスペクターは行政の側に近い立場で動いていた専門家であるにもかかわらず、制度的欠陥を率直に認めており、これは市民団体の主張とは独立した証言として引用価値が高いといえます。


感想

第3回は、

  • 「そもそもこの道路計画の目的は何なのか」
  • 「渋滞が解消するという話は、別の場所で新たな渋滞を生むだけではないのか」

という、本質的な問いが正面から議論されるようになった回でした。

また、

  • ゼロ・オプションを優先的に検証すべきだという加藤委員の指摘
  • 「37%→55%」という水循環の具体的な数値が初めて示されたこと

などは、その後の議論全体を大きく前進させたといえます。

しかしながら、その後発表された「折衷案」を見る限り、こうした本質的な問題点の多くには、十分な言及がなされていないように見受けられます。

2010年の時点でここまで具体的に指摘されていた論点が、その後どのように扱われてきたのかを検証すべきです。

議事録の要約

  1. 「第1回議事録」要約
  2. 「第2回議事録」要約
  3. 「第3回議事録」要約
  4. 「第4回議事録」要約
  5. 「第5回議事録」要約
  6. 「第6回議事録」要約
  7. 全体の要約